これは2015年の5月に数回にわたり説明してきた内容をまとめたものです。 取り上げるこれらの用語は先ず、医療分野において用いられました。今では多方面で使われていますが、ここでは、次亜塩素酸に関わる方々が知っておけば便利だという目的で取り上げました。微生物制御と書きましたが、微生物=菌としてお読みください。
1)滅菌・無菌化 「Sterilization」 目的とする対象物からすべての微生物(菌やウイルス)を完全に死滅させることを言います。滅とは全滅を意味し、微生物に対しては最も厳しい対応と言えます。日本薬局方では微生物の生存する確率が100万分の1以下になることをもって滅菌と定義しています。食品、水、室内、設備、機械等を対象物としています。
2)殺菌「Killing (Inactivation) of microorganism」 文字通り「菌を殺す」ということで、微生物を死滅させるという意味ですが、殺す対象や殺した程度を含んでいません。そのため一部を殺しただけでも殺菌と言えると解され、厳密には有効性を保証するものではありません。 この言葉は、消毒薬などの「医薬品」や薬用石鹸などの「医薬部外品」で使うことができますが、洗剤や漂白剤などの雑貨品(次亜塩素酸水溶液も含まれます)では、使うことができません。
3)消毒「Disinfection」 物体に付着している病原性・感染性のある病原微生物を、死滅または除去し、害のない程度まで減らし感染力を失わせることを言います。全ての微生物を死滅させるものではありません。 一般に「消毒殺菌」という慣用語が使われることもあり、消毒の手段として殺菌が行われることもあります。消毒も殺菌も薬事法の用語です。 明日は静菌についてです。
4)静菌「Biostasis、Antiseptic」 皆さんには、聞きなれない言葉だと思いますが、静菌とは「微生物の増殖が阻害または抑制された状態」のことを言います。今まで取り上げた殺菌は、色々な環境条件下でみられる微生物の死滅現象を指しますが、静菌は一般に微生物が増殖可能な条件下での現象です。いくつかの薬剤が微生物に対し静菌的に働いたとしても、薬剤が取り除かれたり希釈されると増殖性を回復し、一見生き返ったかの感じを与えるので要注意です。また、中途半端な熱処理も微生物を一時的な静菌状態におくことがありますので気を付けなければなりません。
5)防腐「Preservation」 食品等への有害微生物の侵入、発育、増殖を防止し、劣化(腐敗や発行)が起こらないようにすることを言います。この目的で用いられるのが防腐剤です。これから食中毒に気をつけなければならない時期となりますが、食の安全を確保・維持するためにも、適切な対応が求められます。
6)除菌「Removal of microorganism」 目的とする対象物から微生物を排除すること。用語の対象は微生物、操作対象は食品、水、室内、設備、機器等とされています。除菌は学術的な専門用語としてはあまり使われていませんが、食品衛生法の省令で「ろ過等により、原水等に由来して当該食品中に存在し、かつ発育しうる微生物を除去することをいう」と規定されています。 次亜塩素酸水溶液を使用する際には、薬事法上からも「除菌」という表現を用いるようにしなければなりません。
7)抗菌(性)「Antimicrobial」 微生物の増殖阻害・抑制作用(静菌)や死滅作用(滅菌、殺菌、消毒)を含んだ用語 (≒微生物制御)と定義されます。これも、近頃では幅広い商品にうたわれるようになりました。菌の増殖を防止するという意味です。経済産業省の定義では、抗菌の対象を細菌のみとしています。JIS規格でその試験法を規定していますが、抗菌仕様製品では、カビ、黒ずみ、ヌメリは効果の対象外とされています。 菌を殺したり減少させるのではなく、増殖を阻止するわけですが、これも対象やその程度を含まない概念です。
全体のまとめを簡単に載せることにします。
1)滅菌・無菌化 目的とする対象物からすべての微生物を殺滅または除去すること (用語の対象は食品、水、室内、設備、機器等)
2)殺菌 (単に)微生物を死滅させること(用語の対象は微生物)
3)消毒 病原性・感染性のある病原微生物を死滅させること (食品、水、室内、設備、機器等)
4)静菌 微生物の増殖を阻害または抑制すること
5)防腐 有害微生物による劣化を防止すること(食品)
6)除菌 目的とする対象物から微生物を排除すること (用語の対象は微生物、操作対象は食品、水、室内、設備、機器等)
7)抗菌 微生物の増殖阻害・抑制作用(静菌)や死滅作用(滅菌、殺菌、消毒) を含んだ用語(≒微生物制御)
以上